神無月の巫女二次創作小説「禁色の圃(ほ)」(参)
──それは初夏の真昼どきのことだった。辺りには一面水を張った水田が並んでいる。几帳面に配されたみずみずしい青い稲を浸して、鈍い光りのかけらを静かに廻しつつ、水面はゆったりと揺れていた。泥底のうえに浮かんでいる夏の青空を、何重にも響きあう波紋で乱しながら、アメンボウがすいすいと泳いでゆく。ほどかれた空模様はまた新しい様態となって、じわじわと水の上に編まれなおされていく。いくら見ていても飽きない眺めだ。田植えの百姓女が、照りつける日差しを遮る笠を被って、腰をかかげ苗を一本ずつ丁寧に規則正しく泥土の海へ挿してゆく。土いろの飛沫が跳ねかえり、女の粗末な渋染めの衣にも、洗うには難儀なほどの斑点をつけてゆく。女の額にきらきらとした汗が流れている。泥だらけの腕でそれを拭うから、一層、日に焼けた浅黒いその顔が黒ずんで見える。そ...神無月の巫女二次創作小説「禁色の圃(ほ)」(参)